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【第百十話】
◎膜の世界

 皮膚もそうですが、人の身体の組織は層から成り立っています。同じようなはたらきをする同じような形の細胞組織が層を成しており、その上下にはまた違った形とはたらきをする細胞群が層を成しています。その層の中の細胞同士は連携や連絡が密ですが、これに対し上下を隔てて隣り合う層と層の間の連携は決して密ではありません。距離は近くとも、互いに異なったはたらきと形を成す細胞群は層を隔てているだけに、層内の連携と比べると層間のつながりは希薄で、まるで国境を隣合う異国人同士のようです。層内の「密」な関係と、これに相反した層間の「疎」な関係。これこそは、日夜私がスカルプケアの施術で実感する人体の生理の生々しい実像です。

 あたり前のことを何故そうまで仰々しく言うのか不思議に思われるかもしれませんが、とても重要なことなのに見落としがちなことだと思うからです。この層と層の間を隔てる境界に存在するのが“膜”です。膜も広い意味では層の一つの形態であり、一種といえます。むしろ層として典型的な特徴を極めた形態であるということが言えます。

 施術をしていて実感するのですが、人の身体というのはどのような些細な部分でも他の部位そして身体全体へとつながっているということです。どのようにつながっているか、ということで強調したいのが“膜”の存在です。膜はそれぞれ様々な組織を包んでいますが直接、間接に連なっています。そこに途切れはありません。人の皮膚が頭の頂きから足の裏に至るまで、ずっとつながり途切れがないのと同様です。