【第百五十九話】
もし頭皮が自由で、動きの激しい場所であったなら、それらの歴史はきっと彼方に 置き去られてしまっていたであろう。その人の記憶の中に残っただけにすぎないだろう。 だが、幸か不幸か頭皮という組織は動きが少なく、しかも活動は活発で十万本近い髪をつくり続けている。
だから‘髪’に歴史が残っていくのである。苦悩の記憶は髪の形状や色彩、そしてその存在の仕方に姿を写し出すのだ。しかもかなり正確に。である。ここまで述べると思わず‘あっと’叫ぶ人も居るに違いない。そういえば自分の髪が白くなったのは、また細くなったのは、 あの頃のあの思い出の頃だったのでは・・・と。
人の身体は心と直につながっている。その意味では身体の一部。といえるのかもしれない。